量子コンピュータとは?仕組みや種類と企業での活用事例を解説
量子コンピュータは、従来のコンピュータの限界を超える新しい計算技術として注目されています。この技術は、量子力学の原理を活用し、計算能力の飛躍的向上や複雑な最適化問題の解決を可能にします。現在は実用化に向けた研究段階ですが、医療や金融、物流、製造業など、幅広い分野での応用が期待されています。
一方で、まだまだ課題もあり、克服すべきハードルは多い状況です。
本記事では、量子コンピュータの仕組みや応用例、技術課題、そして今後の展望について詳しく解説します。
▶記事監修者:藤吉 栄二氏
野村総合研究所 IT基盤技術戦略室 チーフリサーチャー
メーカー系ソフトハウスを経て、2001年より野村総合研究所に勤務。最新ITの動向調査、システムコンサルティングに従事。
著書に『ITロードマップ 情報通信技術は5年後こう変わる』(共著。東洋経済新報社刊)がある。
量子コンピュータの基本原理
量子コンピュータは、量子力学の原理を活用した次世代の計算技術です。従来のコンピュータと異なり、「量子ビット」を使用して情報を処理します。これにより、並列計算による膨大なデータの高速処理が可能になります。
まずは、量子コンピュータの基本原理である量子ビットと、量子もつれの特徴について詳しく解説します。
量子ビットと重ね合わせ
量子ビット(キュービット)は、量子コンピュータで情報を扱う最小単位であり、従来のビットとは異なる特性を持っています。通常のビットが「0」または「1」のいずれか一つの状態を取るのに対し、量子ビットは「重ね合わせ」と呼ばれる量子力学の特徴により「0」と「1」を同時に取ることができます。
重ね合わせは測定によって崩壊し、1つの状態に収束するという特徴を有しています。重ね合わせを利用した計算によって得られる解には複数の候補がありますが、何度も測定を行うことによって出現頻度が高いものを解として得ることができます。これが量子コンピュータの計算が確率的と言われる理由です。
ただし、量子ビットは環境の影響を受けやすく、その安定性を維持するには課題が残されています。たとえば、超電導方式の量子コンピュータでは、温度の変化で量子状態が壊れやすい特徴を有するため、極低温で動作する特殊な環境が必要です。
量子もつれ
量子もつれは、2つ以上の量子ビットが互いに影響し合う特殊な状態です。一方の量子ビットの状態が確定すると、もう一方の状態も瞬時に決まる特徴を有しています。この特性を利用すると、複数の量子ビットを効率的に操作させることができ、重ね合わせで得られた情報から求められる結果を抽出させることができます。
また、量子もつれの性質は通信の安全性を高める手段としても応用できます。量子もつれを利用すれば、通信の過程で第三者の介入があればそれを検知できます。「量子鍵配送(QKD)」は、この大きなメリットを活かした技術であり、盗聴を防ぎながら暗号鍵を共有するための仕組みとして注目を集めています。
量子コンピュータを用いた計算
量子コンピュータは、量子力学の法則を基に動作する革新的な計算技術です。量子ビットの特性を活用し、従来のコンピュータでは実行が困難だった高度な並列計算を実現します。
その鍵となる概念が量子ゲートです。それぞれが計算性能の向上や新しい通信方式の実現に貢献しています。
ここからは、これらの仕組みを詳しく説明します。
量子ゲート
量子ゲートは、量子ビットを操作し、量子アルゴリズムを実行するための基本要素です。この仕組みにより、複雑な計算や並列処理が可能となります。従来のコンピュータが使用するロジックゲートに相当しますが、量子ゲートは重ね合わせや量子もつれといった量子特有の性質を活用します。
量子アルゴリズムは、特定の問題を効率よく解決するために量子ゲートを組み合わせて構築されます。たとえば、因数分解を高速に行う「ショアのアルゴリズム」や、大規模データの検索を効率化する「グローバーのアルゴリズム」が挙げられます。
しかし、ゲート操作中に生じる誤差は計算精度に影響を及ぼします。そのため、信頼性を向上させるためのエラー訂正アルゴリズムの研究が進められています。
量子コンピュータの種類
量子コンピュータは、計算方式の違いから主に「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の2つに分類されます。
量子ゲート方式は汎用性が高い一方で、量子アニーリング方式は特定の課題に特化しています。
それぞれの仕組みと特徴について解説します。
量子ゲート方式
量子ゲート方式は、理論的にはあらゆる種類の問題を解くための計算回路を作ることが可能な量子コンピュータです。古典コンピュータで用いられる論理ゲートの量子版である「量子ゲート」を活用して、複雑な計算を実現します。
ショアのアルゴリズムや、グローバーのアルゴリズムのような量子アルゴリズムは量子ゲート方式の量子コンピュータで実行させることが可能です。
量子コンピュータの場合は、H(アダマール)ゲート、Tゲート、CNOT(制御NOT)ゲートがあれば万能性があることが知られています。すなわち、これらを組み合わせることで、量子ビットの状態を制御して、任意の量子ゲートを実現し、様々な計算を行うことが可能です。
量子アニーリング方式
量子アニーリング方式は、組み合わせ最適化問題に特化した計算方式です。この方式では、膨大な選択肢から物理的にエネルギーが最も低い状態(最適解)を迅速に探索します。量子アニーリング方式の基盤となるのは「イジング模型」という物理モデルです。解きたい問題をイジング模型にマッピングし、物理的に実装されたイジング模型を用いて最適解を探索します。そのため、量子ゲートではなくイジング模型を数式に置き換えた量子アルゴリズムを利用します。
これをQUBO (Quadratic unconstrained binary optimization)と呼びます。
組み合わせ最適化問題は、物流の最適化やスケジューリングなどの課題に対して利用が期待されており、この方式の量子コンピュータを用いた実証実験が盛んです。私たちの日常生活やビジネスでは、さまざまな最適化問題が存在しています。ただし、従来のコンピュータを使って解ける問題も多く、量子アニーリングだからこそ解くべき問題の探索が進められています。
量子コンピュータの実用化がもたらすメリット
量子コンピュータは、従来のコンピュータをはるかに超える計算能力を持ち、様々な分野で画期的な技術革新をもたらす可能性があります。
主なメリットには、計算速度の飛躍的な向上、医療や産業界での革新的な応用、そして消費電力の削減によるエネルギー効率の向上が挙げられます。
それぞれの具体的な影響について解説します。
計算能力の飛躍的向上で超高度な分析が可能になる
量子ビットの重ね合わせと量子もつれの特性により、量子コンピュータは複数の計算を同時に処理できます。
この並列計算の能力によって、従来のコンピュータを大幅に上回る計算速度を実現します。
たとえば、RSA暗号のような複雑な数理問題も短時間で解けるようになり、これまでスーパーコンピュータでも対応が難しかった計算を可能にします。
また、大量のデータを迅速に処理できるため、AIや機械学習のトレーニング時間が短縮され、より高度な分析が実現します。これにより、金融業界でのリスク計算や市場予測、物流業界での最適化など、多岐にわたる分野での応用が期待されています。計算能力の向上は、次世代技術の発展において不可欠な要素です。
産業界に新たな技術革新をもたらす
量子コンピュータは、創薬分野での革新に大きく貢献します。
特に分子シミュレーションの高速化により、新薬やワクチンの開発プロセスが大幅に短縮される見込みです。この技術はパンデミックの際の迅速な対応や、希少疾患の治療法開発にも活用されるでしょう。
さらに、化学構造や材料科学のシミュレーションを効率化することで、新しい素材や化合物の発見が促進されます。
これにより、産業界では持続可能な製品の開発や、生産効率の向上が期待されています。AIモデルのトレーニングも量子コンピュータによって加速し、より高度な機械学習モデルの実現が可能になります。
消費電力を抑えエネルギー効率が良くなる
量子コンピュータは、従来型コンピュータと比較して消費電力が低いことが特徴です。計算効率が高いため、同じタスクを実行するのに必要な電力を大幅に削減できます。これにより、環境への負荷が軽減され、持続可能な社会の実現に寄与します。
冷却装置が必要な場合でも、全体的な電力消費は従来のデータセンターに比べて少ないとされています。エネルギー効率の向上は、量子コンピュータが社会的に広く受け入れられる要因の一つとなるでしょう。この点は、地球環境保護の観点からも重要です。
量子コンピュータの応用例
量子コンピュータは、多様な産業分野で革命的な進展をもたらす可能性を秘めています。
自動車業界や製造業界、金融業界、物流業界、医療業界、さらにAI分野において、それぞれ独自の活用法が期待されています。
以下に具体的な応用例を示し、それぞれの分野でのメリットと課題を解説します。
自動車業界
量子コンピュータの活用により、自動車設計の複雑なシミュレーションが可能になり、開発サイクルが大幅に短縮されます。例えば、新しい車両素材の特性をシミュレーションすることで、軽量かつ耐久性の高い材料の開発が進められています。
また、量子コンピュータを活用したバッテリー化学反応の詳細なシミュレーションにより、効率的で持続可能なバッテリー技術の進展も期待されています。さらに、量子センサーとAI技術を組み合わせることで、自動運転車の知覚能力やナビゲーション精度の向上が進みます。
これらの技術革新は、自動車業界全体の競争力を高める重要な要素となるでしょう。
製造業界
製造業では、量子コンピュータを活用して分子のモデリングが可能になり、新素材の開発が加速します。これにより、より高性能な製品を効率よく生産する基盤が整います。また、生産フローやロボットのスケジューリングを最適化することで、製造プロセス全体の効率化も実現します。
さらに、複雑なサプライチェーンネットワークの最適化により、部品供給や在庫管理の精度が向上します。製品設計時のシミュレーション技術が強化されることで、安全マージンを最適化し、コスト削減にも寄与します。量子コンピュータの導入により、製造業の持続可能性と競争力が向上することが期待されています。
金融業界
量子コンピュータは、金融業界において複雑な最適化問題を高速に解決する能力を発揮します。これにより、投資戦略の立案やリスク評価がより正確に行えるようになります。さらに、金融派生商品の評価やシミュレーションをリアルタイムで実施することが可能です。
また、複雑なパターンを迅速に検出する能力により、金融詐欺の検知やAML(アンチマネーロンダリング)プロセスの効率化も進みます。大量データを解析して信用スコアリングモデルを構築することで、審査プロセスの効率化にも寄与します。市場動向を瞬時に予測し、最適な取引を行う技術は特に高頻度取引で大きな役割を果たすでしょう。
物流業界
物流業界では、量子コンピュータの計算能力を活用して、輸送効率の向上が期待されています。最大の積載率や最短経路を瞬時に導き出すことで、コスト削減やサービス向上が実現します。また、在庫管理や需要予測の精度を高めることで、過剰在庫や欠品リスクの低減が可能です。
さらに、物流工程でのエネルギー消費やCO2排出量を削減することにより、持続可能な物流を実現します。これにより、ドライバーの労働環境改善や人手不足への対策が進むと期待されています。
医療業界
医療分野では、量子コンピュータが新薬開発や治療法の進展に大きく貢献します。分子シミュレーションの高速化により、候補物質の探索が迅速化され、新薬開発の時間とコストを削減できます。遺伝データの解析もスピーディに行え、個別化医療がさらに発展します。
また、医療画像の高精度な解析により、早期診断や誤診防止が進むと考えられます。量子暗号技術を活用して患者データを安全に保護する仕組みも重要な応用例です。これらの技術は、医療現場での効率化と質の向上をもたらします。
AI分野
AI分野では、量子コンピュータが学習プロセスを大きく変革します。量子機械学習のアルゴリズムのうち、量子回路学習では、従来のニューラルネットワークよりも単純な構造で高度な学習が可能になります。量子ビットの重ね合わせを利用することで、複雑なパターンの認識能力が向上します。
さらに、量子コンピュータと従来型コンピュータを組み合わせたハイブリッドシステムにより、AIの処理効率が向上します。これにより、AIの応用範囲が広がり、新しい価値創造が可能になると期待されています。
量子コンピュータの課題や問題点
量子コンピュータは、革新的な技術である一方で、いくつかの重要な課題や技術的な問題を抱えています。特に、量子ビットの安定性やエラー訂正、スケーラビリティ、ノイズの影響、冷却技術の必要性が主要な課題として挙げられます。
これらの課題を克服するための研究開発が進められていますが、実用化にはまだ多くのハードルが残されています。
量子ビットの安定性とエラー訂正
量子ビットは、外部からの干渉や熱の影響を受けやすく、不安定になりやすいという特性があります。このため、計算中にエラーが発生するリスクが高く、正確な計算結果を得るためにはエラー訂正が欠かせません。しかし、エラー訂正には多数の量子ビットが必要であり、現在の技術ではそれを実現するための規模と精度が不足しています。
理想的な量子コンピュータを意味する誤り耐性量子コンピュータを実現するには、量子ビット数を増やすだけでなく、ノイズを抑えつつ安定した動作を維持する技術が必要です。これには莫大なコストと時間がかかるため、実用化に向けた大きな課題となっています。
スケーラビリティと拡張性
量子コンピュータを実用規模に拡張するには、数万から数百万単位の量子ビットを効率的に制御する必要があります。しかし、現在の技術では、これほど大規模なシステムを実現するのは極めて難しい状況です。量子ビットが増えると、それらの干渉や相互作用も増え、制御がさらに複雑化するからです。
大規模な量子コンピュータの開発は、材料科学やエンジニアリング技術の進展が欠かせません。また、量子ビットの動作を安定させるための新しいアーキテクチャの研究も重要です。このような課題が解決されなければ、商業レベルでの導入は困難です。
ノイズと環境干渉への脆弱性
量子コンピュータは、電磁波や熱、振動といった外部のノイズに非常に敏感です。このような環境干渉は、計算結果に誤差を引き起こし、正確性を損なう原因となります。ノイズを低減する技術開発が進められていますが、完全に克服するには至っていません。
ノイズの影響を抑えるには、量子コンピュータを厳密に制御された環境で動作させる必要があります。しかし、そのためには高度な技術と高額なコストがかかります。この課題を克服することで、量子コンピュータの信頼性を向上させることが期待されています。
冷却技術と物理的制約
量子コンピュータのうち、開発が先行している超電導型量子コンピュータで、量子状態を維持させるために絶対零度近くまで冷却された環境が必要です。このため、専用の冷却装置が必要であり、それに伴うコストや物理的な制約が課題となっています。さらに数万から数百万単位の量子ビットを冷却しようとすると、大規模な冷却装置が必要になります。
効率的な冷却方法の実現は、超電導型量子コンピュータの普及に不可欠です。
量子コンピュータに関連した企業の取り組み事例
量子コンピュータへの関心の高まりを受け、多くの企業がその研究に取り組んでいます。
日本国内でも、自動車部品、IT、流通、商社などの幅広い業界で量子コンピュータの活用研究が進んでいます。
それぞれの企業が量子コンピュータを使ってどのような問題に取り組み、具体的な成果を上げているのかを見ていきます。
株式会社デンソー
株式会社デンソーは、独自の疑似量子技術「DENSO Mk-D」を開発し、世界で初めて500万変数規模の実問題に対応可能なことを確認しました。 疑似量子技術とは、量子アニーリングの基盤であるイジング模型の仕組みを従来型のコンピュータであるGPUで実現した計算技術です。すでに複数の国内企業が疑似量子コンピュータを提供していますが、今回他社製品では対応が難しかった大規模な問題の解決を可能にしています。
具体的には、デンソーの納入中継地におけるトラック配送スケジュールの最適化に取り組み、通常77台のトラックを58台に削減(約25%削減)する配送スケジュールを、わずか6分間で立案できることを実証しました。
この成果は、物流分野における効率化やコスト削減に大きく貢献するものです。
デンソーは、今後も疑似量子技術を活用し、社会課題の解決に向けて研究開発を進めるとともに、他企業や研究機関との連携も視野に入れています。
この取り組みは、物流業界のみならず、幅広い分野での応用が期待されています。
参考:株式会社デンソー「デンソー、疑似量子技術「DENSO Mk-D」を開発、世界で初めて500万変数規模の実問題に対応」
富士通株式会社
2023年10月、富士通株式会社は、国立研究開発法人理化学研究所(理研)と共同で、64量子ビットの超伝導量子コンピュータを開発しました。 この量子コンピュータは、理研が2023年3月に公開した国産初の64量子ビット超伝導量子コンピュータの開発ノウハウをもとに新たに開発されたものです。
さらに、富士通は世界最大級の40量子ビットの量子シミュレータと連携可能なハイブリッド量子コンピューティングプラットフォーム「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」を開発しました。
これにより、ノイズの影響を受ける実際の量子計算結果と、ノイズのないシミュレーション結果を比較することが容易になり、エラー緩和アルゴリズムの性能評価など、量子アプリケーションの研究開発が加速すると期待されています。
富士通と理研は、超伝導量子コンピュータとハイパフォーマンスコンピュータ(HPC)を連携させたハイブリッド量子アルゴリズムの開発にも取り組んでおり、量子化学計算や金融アルゴリズムなどの分野での応用が進められています。
今後、1,000量子ビット級の超伝導量子コンピュータの実現に向けた技術開発を推進し、量子コンピューティングの実用化を目指しています。
マックスバリュ東海株式会社
マックスバリュ東海株式会社は、経済産業省の「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に採択され、デリカ長泉工場において、惣菜自動盛付ロボットの導入とブラッシュアップを進めています。 この取り組みは、惣菜製造工程の自動化と効率化を目指し、ロボット技術の活用を推進するものです。
ロボット技術の活用に加えて、同実証では、ポテトサラダのロボットラインを含む50人の勤務シフト作成の自動化を目標にして、株式会社グルーヴノーツが開発した、量子アニーリング方式の量子コンピュータを使ったシフト作成サービスを活用しました。
マックスバリュ東海は、これらの先進的な取り組みを通じて、労働力不足や生産性向上といった課題の解決に寄与し、食品製造業界全体の発展に貢献し続けたいと宣言しています。
参考:マックスバリュ東海株式会社「令和4年度革新的ロボット研究開発等基盤構築事業 ロボットフレンドリーな環境構築支援事業に採択 」
参考:株式会社グルーヴノーツ「マックスバリュ東海とグルメデリカで、量子コンピュータを用いたシフト作成サービスの活用を開始|ニッセーデリカは、AIによる注文量予測を実施」
住友商事株式会社
住友商事株式会社は、量子技術を活用した事業高度化と新事業創出を目指し、「QXプロジェクト」(Quantum Transformation Project)を発足させました。 このプロジェクトの一環として、イスラエルのスタートアップ企業Classiq Ltd.に出資し、ゲート型量子コンピュータ向けソフトウェアの開発を支援しています。
さらに、住友商事は東北大学大学院情報科学研究科との共同研究や、慶應義塾先端科学技術研究センターとのパートナーシップを通じ、量子コンピューティングを活用したAIや交通制御などの技術の実用化に取り組んでいます。 また、グループ会社である株式会社ベルメゾンロジスコにて、量子コンピューティングを用いた人材配置の最適化実証を行い、約30%の効率化を示唆する成果を上げました。
これらの取り組みにより、住友商事は量子技術による社会変革のリーディングカンパニーを目指し、国内外の産官学パートナーと連携しながら、量子技術の社会実装と産業利用の促進に努めています。
量子コンピュータの今後の展望
量子コンピュータは進化の途上にあります。量子アニーリング方式は、疑似量子技術も含めて、どのような最適化問題であれば従来のコンピュータで提案されている手法よりも有益な解が導けるか、さまざまな探索活動が行われています。一方、量子ゲート方式はノイズの多い中規模な量子コンピュータ(NISQ)の段階にあります。現状では量子ビットの不安定性やエラー制御の困難さ、大規模化の技術的限界が実用化を阻む主要な課題です。
たとえば、ゲート型量子コンピュータで先行する超電導方式の場合、実用的な計算を実現するには、10万から100万量子ビットが必要とされており、その規模に達するためには極低温環境を維持するための冷却技術も含めて多くの技術革新が求められています。
ゲート型量子コンピュータは、3つの段階を経て実用化に向けて進むと予測されています。現在はNISQ時代と呼ばれ、ノイズがある環境下でも解ける問題がないか探索が進められていますが、実用的な利用シーンは見つかっていません。今後、2030年前後にかけて、初期のエラー訂正機能を備えたゲート型量子コンピュータが登場し、商業利用に向けたアプリケーションの提案が始まるでしょう。大規模で誤り耐性のある量子コンピュータの実現は、10年後の2035年とも、20年以上先とも言われていますが、従来のスーパーコンピュータでは不可能だった高度な計算が可能になると期待されています。
量子コンピュータが実現すればさまざまな産業分野に革命をもたらすでしょう。複雑な分子構造のシミュレーションが迅速に行えることで、新素材や医薬品の開発が加速します。また、エネルギー効率や交通システムの最適化、物流の効率化といった分野での応用が進み、持続可能な社会づくりにも大きく貢献する可能性があります。
量子コンピュータには、私たちの生活や産業構造に抜本的な変化をもたらす技術として、今後ますます期待が集まるでしょう。